斜め前の方角から木箱を抱えたタカ丸と三郎次が連れ立って歩いて来る。行く手に目を凝らしていたタカ丸は、そこにいるのが三木ヱ門と文次郎だと気付いて、気後れしたようなほっとしたようなどっちつかずの表情を浮かべた。
「……先輩こんにちは」
首を縮めるようにして挨拶した三郎次が一本調子に言い、やや目が泳いでいる文次郎を見て不審そうな顔をする。それよりは愛想良くこんにちはと言ったタカ丸は、三木ヱ門の唐輪髷にきらりと目を光らせた。
「どうしたの、その髪。自分でやったの?」
「いえ、あのー、先輩が冗談で」
「え、潮江先輩が!?」
軽く仰け反るほどタカ丸が驚き、文次郎はまたぷいとそっぽを向く。三郎次は興味がなさそうに木箱の中のものをかちゃかちゃいじっていたが、小さい皿や細長い匙や見慣れない道具が三木ヱ門の注意を引いた。
「何が入っているんだ? 調合の道具か?」
「ええまあ。新しい火薬用の新品です。はい」
言いながら三郎次は箱の隅に突っ込んであった小冊子を引き抜き、それを三木ヱ門に差し出した。
「……何、これ」
「トリセツですよ。先輩、試射をするんでしょう。読んでおいて下さい」
なるほど、表紙には「なんとか商館謹製御道具取扱説明書」と書かれている。お試しで買い入れた火薬を各種火器で試し撃ちしてほしいと兵助に頼まれたのを忘れてはいなかったが、頭の端に追いやったきりになっていた三木ヱ門は、受け取った冊子をその場でぱらぱらめくってみてたちまち心を取られた。
が、文次郎にぽんと頭を小突かれて我に返る。
「後にしろ、後に。今はやることがあるだろう」
「でした……」
「あー。あのね、喜八郎が三木ヱ門を探してたよ」
宿題宿題宿題とイラつきながら、とタカ丸が苦笑しつつ教えてくれる。そして、試射とは何の話かと三木ヱ門に尋ねている文次郎に向かって、いくらか真面目な顔をした。
「あのう、先輩。こういうのはちょっと感心できないですよ」