何となく握り合ったままになっていた手はしばらく歩くうちにどちらからともなく離れる。
歩きながら何度か空いた手を開閉した文次郎は、今度はうなじの辺りで髪をひとまとめに掴んで、袖に入れていた紐でその根本をくるくると括った。
「傍目には分かりにくいですね」
それを横目に見ながら三木ヱ門が言うと、結び目の位置を決めかねている文次郎は無造作に「何が」と返した。
「先輩と食満先輩の仲が」
「悪い」
迷いもせずすぱっと答える。
「見てりゃ分かるだろ。馬も反りも合わねえ」
「それはそうなのでしょうけど」
その割りに、口喧嘩にしろ手足が出る掴み合いにしろふたりの呼吸は妙に合っている。血の気が多く好戦的な武闘派という方向性は同じだけに、考え方や行動は自ずと似通っているのか、能や狂言の掛け合いを見ているような安定感さえある。
「相性はいいように見えます」
「やめてくれ、怖気がする」
「でも、食満先輩が嫌いで喧嘩をしていらっしゃるのではないんでしょう?」
「それはなあ……お前は、平と仲がいいなって人から言われたらどう思う」
「えっ。イヤです」
先輩たちほど壮絶ではないものの、自信家で自慢たらしい同級生とは寄ると触ると諍いになるのが常だ。タカ丸はそれを「仲良し」と言って目を細めていたが、とんでもない。
「平が嫌いか?」
「嫌いです、あんな自惚れ屋!」
「じゃあ、あいつが命に関わる危険な状況に陥っていたとしても、全然気が咎めないで見過ごせるか」
「それは……助けます」