「俺が何を独占してるんだよ」
「そう言うのか。なら、田村を用具にくれ。うちは常に人が足らねぇ、働き手は何人いたっていい」
「馬鹿か」
妙な成り行きに困惑して突っ立っている三木ヱ門に向かって留三郎が手招きし、却下の言葉ではなく苦り切った一言で、文次郎は一瞬の躊躇もなく拒絶する。
「田村がいないと困る」
「会計の戦力的にか。それとも、お前が個人的にか」
「両方だ」
繋いだ三木ヱ門の左手ごと右手を持ち上げて、文次郎は三木ヱ門の肩を手の甲でこつんと叩いた。
「俺だけじゃ手が回らない仕事の補佐、判断に迷った場合の相談やミスの指摘、間違った方向へ突っ走りそうな時の諫言、数え上げたら切りがねえが、それをしてくれるのがこいつだ」
「それこそ独占……」
「それじゃ、作兵衛を会計にくれと言ったらくれるのか」
「やなこった。俺の後輩だ」
しゃがんで膝を抱えている留三郎は即答し、その姿勢のまま少し仰のいてくるりと目を巡らせ、一歩下がって頭を起こした作兵衛を見た。
「なあ、作兵衛。会計なんかに行くの嫌だろ?」
「はいっ!」
作兵衛が勢い込んでいい返事をした。そしてすぐに、あ、という表情になって、"なんか"呼ばわりされた会計委員の上級生たちに申し訳無さそうに目礼する。
その謝罪を押し返すように、文次郎は空いている左手をひらひらと振った。
「収まるべき場所に収まったところでとっとと医務室に行け、バカアヒル」
「だからアヒルって呼ぶな。それに馬鹿と言う方が馬鹿だって至言を知らねえのか」
「馬鹿に馬鹿と言って何がおかしい」
「俺が馬鹿ならお前は大馬鹿じゃねえか、バカガラス」
「カラスって。どこから出て来たんだ」
「お前が着けてた飾り結び」
「あれはふくら雀だ、馬ぁ鹿」
「また馬鹿っつったな!」
「……」
口論と呼ぶにはあまりに子供じみた言い争いだ。
放っておけば際限なく続きそうな気配を察し、三木ヱ門と作兵衛は視線を交わして頷き合うと、六年生への尊崇が消える失せる前に、ふたりを引き剥がしてそれぞれの目的地へ再度歩き出した。