作兵衛の不審な行動に始まる今までの経緯をかくかくしかじか説明すると、左門はくるりと瞳を動かして、ちょっと自分の頭の中を覗き込むような表情をした。
そして、あっさり言った。
「見慣れない外見の猿なら、半刻ほど前に角場の隅で見かけました。あれがおそらく生物委員が探している猿でしょう」
「えっ? なら、なんでさっき教えてやらなかったんだよ」
「”ただの猿”と言っていましたから。まさかあんな、猫みたいな顔の変な猿のことだと思いませんでした」
事情を知っているから屁理屈に聞こえるが、道理ではある。それに、今から生物委員をつかまえて「角場の周辺を探せ」と言っても、猿はもうとっくに移動してしまっているだろう。申し訳ないが地道に探し続けてもらう他ない。
「そんな珍しい生き物なら、僕も見たかったな。捕まえれば良かったのに」
冗談めかして三木ヱ門が言うと、左門は再びあっさりと言った。
「捕まえましたよ」
「えっ!?」
鼻っ柱の強い四年生が大声を上げて驚くのを見て、左門は幾分得意げな表情をした。袖をめくり、引っ掻き傷だらけの前腕を見せつけて、得々として話しだす。
「角場をうろうろして、間違って撃たれちゃかわいそうだと思って、植え込みの中で何か食べてたところに後ろから飛びかかったんです。初撃はかわされましたが、餌を取られると思ったんでしょうね、ちっちゃいのに逃げるどころか刃向かってきました。そこで丁々発止、組んず解れつの大乱闘――」
「ちっちゃい猿とか」
「……はい」
冷めた一言に左門がしゅんとした。それでも、すぐに気を取り直して話を続ける。
「ともあれ、どうにか捕獲して、安全な所で離してやろうと手拭いに包んで懐に入れて歩いていたら、これから外出なさるという先生にお会いしたので――」
「おい、まさか」
嫌な予感がして三木ヱ門は思わず割り込む。が、左門の語りは止まらない。
「山の中で離してやって下さいとお願いして、お持ち頂きました」
すまん、生物委員。いや、別に僕が謝る謂れはないんだけど。