「その上、てめえの怪我の程度も把握できないでふらふら出歩いてると来たら始末に終えねえ」
さっさと医務室に行って伊作になぶられてろと皮肉げな口振りで言い、文次郎は自分の肩越しに後ろを指す。
言い返す時機を窺っていたのか、眉を上げたり下げたりしながら口をつぐんでいた留三郎は、丁度眉が下がっている時にぼそりと言った。
「それは"別に心配してる訳じゃないんだから勘違いしないでよね!"ってやつ?」
「そんなに埋められたいのか」
「やだ」
「先輩、潮江先輩の仰る通りです。ちゃんと手当てを受けてください」
事の詳細は作兵衛には分からなくても、留三郎の調子がおかしいのだけは確かだ。また口論になりそうなところへ遠慮しいしい割って入り、しかし叱責の口調で、留三郎に進言する。
留三郎は頭が外れるのではないかと思うような急角度でがくりと首を傾け、真面目な顔で自分を見上げている作兵衛を見た。
「先輩が養生をされている間は私と一年生たちで精一杯励みます。ご心配はお掛けしませんから、どうか」
「うん……、うーん」
困ったように留三郎が唸る。
用具委員会は六年生の委員長が抜けると、一・三年生だけの下級生所帯になる。それでは力仕事ができない――ということは、怪力の一年坊主・しんべヱがいるから無いが、下級生だけで危険な作業をしなければならない状況が巡ってこないとは限らない。留三郎の徘徊には、それを憂慮して「休んではいられない」と気を張っている面も、あるにはあるのだろう。