返答にも反応にも困っている作兵衛の窮状に気付く様子もなく、留三郎の上調子は続く。
「参るよなー。その必要があって情報交換をしただけなのに、たぶらかした、とまで言われてすっ倒されてさ。何それ、どこからそんな発想が出て来るんだよ? 文次郎、お前、田村の何なの? もしかしてあれか、田村は自分の意志で口をきく自由もないのか?」
「……頭、沸いてんのか」
へらへらと喋り続ける留三郎に対して文次郎はまとまった言葉が出ない。口喧嘩と言うよりも一方的な挑発、あるいは単なるいちゃもんだが、状況を鑑みて言葉を選ぶところまで意識が追いつかないらしい留三郎に圧倒的な分がある。
普段の留三郎は文次郎が相手だと無闇に好戦的にはなるが、罵声はぽんぽん叩きつけてもねちっこく絡むような物の言い方はしない。こうまで面倒臭いということは、たぶん「真っ直ぐ歩けない上に涙目」という見た目以上に朦朧としているに違いない。
と思いたい。
「なあ、田村、実はこいつに束縛されちゃったりしてんのか」
「へっ!?」
「嫌ならイヤだって言わないとこいつには通じねえぞ。ああそうだ、頼んでいた"鼻薬"のことを聞きてぇんだが」
「それでしたら――」
「でもお前と喋ったら今度はシャイニングウィザードぐらい食らっちまうのかなー。ははは」
面倒臭い。
今度は三木ヱ門が絶句し、これ以上ないくらい渋い表情をした文次郎が、作兵衛に半ば寄りかかった留三郎を顎で指す。
「作兵衛、そいつ埋めろ。埋めちまえ」
「そんな無茶な。……食満先輩、医務室に行きましょう」
作兵衛が深刻そうな顔でとんとんと留三郎の腕を叩く。様子がおかしい――おかし過ぎる――のは明らかで、もはや一刻の猶予もならないと察したらしい。
「生物を通して伊作がぶん取った薬種の伝手が"鼻薬"だ」
唐突に文次郎が言った。
付加情報をすべて切り離した簡潔な報告にさしもの留三郎も混ぜ返す要素を見つけられず、「ふうん」と妙に素直な返事をする。