俺が田村とつるんでるのを妬いて思いっ切り床に叩きつけやがったからだと、口を尖らせて留三郎が言い返す。言い負かされるのはしゃくだから思い付くまま何でも喋ってしまえとばかりの子供のような口ぶりで、「自分の不調はお前にぶっ飛ばされたせいだ」と抗議したいのが本意ではあるのだが、面と向かって妬心を指摘された文次郎は「あ?」と調子外れな声を上げて絶句した。
「……やきもちって、あの、火であぶって焼いた餅のことですよね」
とは本気で思っていないけれど妬きもち焼きってまさか潮江先輩のことですかと問い質すのもマズそうなのでとりあえずこう言います、という表情を顔いっぱいに浮かべて、作兵衛がすっとぼける。うろたえながらも空気を読んだ三年生に正解を求めるような視線を向けられて、どうせなら触れずに受け流して欲しかった、と三木ヱ門はちょっと天を仰いだ。
その全力の努力を留三郎があっさり無にした。
「あのな、作兵衛」
掴まれていない方の左腕で作兵衛の首を抱え込んで引き寄せ、わざとらしく声をひそめる。
「俺と田村で組んで調べ事をしていたら、この鍛錬バカはな、事もあろうに俺が田村を横取りしたと思い込んだんだぜ」
「へ」
作兵衛は目をぱちぱちした。未だ絶句中の文次郎のほうへ動きかけた視線を慌てて逸し、その横で立ち竦む三木ヱ門にも向けかねて、ふらっと宙にさまよわせる。