このまま進むとその先は医務室だ。
最初の邂逅では出会い頭で重傷患者にラリアットを決めたという文次郎も今は悠然としているが、不倶戴天の敵を目の前にしているのに突っかかって来ない留三郎は、きょときょと動く目がうっすら涙で濡れている。
当分の間戦力外になることについての相談のため、団蔵と異界妖号に介助されて作兵衛の所へ行ったまではいいものの、絶対安静を言い付けられるほどの満身創痍ぶりは伊達ではない。どうやら作兵衛は自分の健康状態の認識を著しく欠いている用具委員長を医務室へ叩き込もうとして、ここまでしゃにむに引っ立てて来たようだった。
「今は医務室に善法寺先輩がいらっしゃるぞ」
「そうなんですか? ああ、良かった」
薬湯のせいでちょっと言動が怪しいという点は省いて三木ヱ門がそう教えると、保健委員長が見張っていればさすがに再脱走はするまいと思ったのか、作兵衛はいくらかほっとしたように頬を緩めた。
それとは対照的に少し目元を曇らせる留三郎に、文次郎が人の悪い笑みを向ける。
「足腰立たなくしてやるってよ。せいぜい期待しとけ」
「何だよそれ。交竜雲雨が待ってんのか」
誰とだよ、と鬱陶し気に留三郎が呻く。耳慣れない言葉にきょとんとする三木ヱ門と作兵衛に素早く目をやって、文次郎は「馬鹿野郎」と短く言い捨て、それからじいっと留三郎を見た。
「まともに頭が回ってねえな」
「そのうちの一割ぐらいはお前が原因だ、妬きもち焼き」