試しに掴み返してみると、軽く曲げて三木ヱ門の手のひらに引っ掛かっていた文次郎の指は呆気なく押し負けて、簡単に指先を握り込めた。
「いま先輩と腕相撲をしたらギリギリで勝てそうな気がします」
「気がするだけ、な。でもこの状態から指が抜けないんだよ」
「あ、本当だ。動いてない」
「感覚は普通にあるんだよなぁ」
文次郎はそう言いながら、刀の柄を握る要領で三木ヱ門にしっかり押さえ込まれた指を動かそうと試みるものの、それこそ掴まれたひよこが迷惑がって身じろぎしたような感触しか伝わってこない。蒸気を吸い込んだだけでこれだけ効果があるとは恐ろしい、腕相撲はギリギリでも指相撲なら勝てる、いつまでこのままなんだコレ、ところで眠気はもう大丈夫ですか、などと他愛も無いことを言い合っていると、ちょうど対向から歩いて来た二人連れが、三木ヱ門と文次郎の姿を見て足を止めた。
「……何、この状況」
唐輪髷と下ろし髪の風体で手を取り合っているふたりをやや引き気味に眺め、訝しさに満ちた口調で呟いたのは、こちらはこちらで作兵衛に右腕を小脇に掻い込まれた留三郎だった。
「おー。逃亡アヒルじゃねぇか」
「俺をアヒルと呼ぶな。……いや、なんでお前らこんな所で手を繋いでるんだ、野郎同士で。下級生ならともかく四年と六年で」
「何か?」
「変か?」
「え、おかしいの俺なの?」
会計委員たちに真顔で言い返された留三郎が動揺すると、会釈したあとは慎ましく黙っていた作兵衛は困ったような顔をして、抱えている留三郎の腕にちらっと目を落とした。
左門か三之助の片方だけを連れている時の作兵衛は、級友が急に駆け出してはぐれないよう、しばしばこうしてがっちり腕を捕まえている。してみるに、留三郎のジャイロはまだ壊れているらしい。