「田村、紐か紙を持ってないか」
「手拭いのを切れ端で良ければ」
ふくら雀に押し込んでいた、猿に噛み破られた手拭いは畳んで懐に入れてある。三木ヱ門はそれを引っ張り出すと縁を噛んで手早くひとすじ裂き、くるくると撚って文次郎に渡した。
「悪い。もうボロボロだな、その手拭い……それで鼻をかんでたよな」
「その部分は避けてますよ。髪、結びましょうか」
三木ヱ門の申し出に、文次郎は指先に持った急拵えの紐と後輩の顔を何度か見比べる。そして肩を竦め、「遠慮する」と素っ気なく言って両手で髪をざっと梳き流した。
「お前に任せたら稚児輪にでもされそうだ」
「その手がありましたか」
「よせ、冗談に聞こえない」
わざと苦い顔をした文次郎はそう言って紐を口にくわえた。片手で取りまとめた髪の根を何度か持ち変えながら位置を直し、紐をきちきちと巻き付けて、いつもの見慣れた茶筅髷に結い直す。
が、すぐにばらりと解けてしまった。
「……思ったより握力が戻ってねえな」
右手を何度か開閉して、忌々しげに文次郎がこぼす。
「唐輪髷は作れたのに」
「巻いて結んだだけだからな、それは」
「握力がないって、手が痺れている感じですか?」
「いや。思うように力が入らない」
全力でもこんなざまだと、文次郎はひょいと三木ヱ門の左手を握った。
なるほど、手の内でひよこでも掴んでいるようなやんわりした圧しか感じない。