タカ丸に聞いた話では、元結を高く取って思い切り良くうなじをさらした唐輪髷は、大陸の女性を真似た髪型なのだそうだ。髪を結い上げるという見た目の華やかさと異国情緒が受けて、貿易船が立ち寄る港や大きな町で、一部の女性の間に流行り始めているとか。
当世人気の文物をいち早く知るのも忍者の能力のうちだから、文次郎がそうと知っていて三木ヱ門の髪をいじったのは間違いない。
つまり唐輪髷は女の人向けの結い方で、ラリっているのか遊び心なのか意地悪なのか、十三歳の男の髪をその形に作ったうえに可愛らしく飾り結びまでして下さったわけで……しかし、いざ「解いていい」と言われると――
なんだか勿体ない。
「……変ではないですか?」
五弁花を崩さないようにそおっと花結びに触れながら三木ヱ門が尋ねると、文次郎は無責任にも「何が?」と尋ね返した。
「その……見た目が」
「俺の結い方が下手だって話か」
「違います! 私がこの髪型をしていてもおかしくないですよね、と言いたいんです」
「おかしくない事はない」
「ややこしいなぁ!」
「でも、変じゃねぇだろ」
結び残して首元に垂れた頭巾の裾をちょいと引いて形を直し、文次郎が言う。これがいくらかでも笑いを含んだ声なら「悪ふざけはやめてください!」と紙縒りを外してしまうこともできるのに、文次郎の口調はごく真当で、何も言えなくなった三木ヱ門はむうと口をつぐんだ。
「もう何でもいいですから、早く土井先生の所に行きましょう」
「あ。紙縒りが無え」
つんけんと三木ヱ門に促されて歩き出しながら、自分のざんばら髪の先をつまんだ文次郎が今更なことを言う。