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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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風に吹かれた三木ヱ門が思わず両手で腕をさすると、それを見た文次郎が何か言いかけたが、急にくるっと顔を逸らした。何だろうと思う間もなく、くしゃん! と小さいくしゃみが破裂する。
「それも偽風邪ですか?」
鼻の頭をこすりつつ向き直った文次郎にそう尋ねてみると、「分からん」とぶっきらぼうな答えが返って来た。頭の後ろに手を回して結髪の根元の紙縒りを引き抜き、手櫛で髪を梳きながらしかめっ面をしている。
これくらいで寒いなどと騒ぐなと言おうとしたら、自分がくしゃみをしてしまって機を逸した――のだろう、たぶん。格好の付かなさと決まり悪さが相半ばしてひどく不機嫌そうな表情になっている文次郎を横目に、ふと思いついた。
「医務室で生姜湯を貰って来ましょうか」
「あそこに戻るのは嫌だ。このうえ伊作に何をされるか分かったもんじゃねえ」
「はは……」
本気で嫌がっているのがありありと分かり、三木ヱ門は苦笑いに紛らせて言葉を濁した。ここに左吉がいたら、また何か的確だけれど余計なことを言って妙な雰囲気になったところだ。
と考えて、はたと気付いた。
鹿子と作兵衛をきっかけに心ならずも東奔西走したこの放課後、色々な出来事に出くわしてきたが、そう言えば文次郎と――思い出すだけでもこの場でしゃがみ込みたくなるようなやり取りをした後の文次郎と、二人きりの状況になるのは今日これが初めてだ。
ふくら雀を首に結んだ時は、まだのんびりしていたけれど。
そう意識した途端に、三木ヱ門は何もない所でつまづきそうになった。
「で、でも、本当の風邪も、この気候じゃ近いうちに流行り始めてしまうかもしれませんね。今日は生姜湯がよく売れると乱太郎が言っていましたから」
橋を架けに行って水に入った用具委員たちと、頭から浴びた消毒薬の気化熱で冷えてしまった斜堂先生と、びしょ濡れのままで村の人と睨み合いをしていた食満先輩と――と、早口に言いながら指折り数える。
「学園に戻って来たばかりの食満先輩にたまたまお会いしたら、派手にくしゃみをしてらっしゃいましたし。熱があるようだと言うのも、怪我のせいじゃなくてもしかしたら風邪のひき始めで――わあ!」
並んで歩きながら取り留めのない話を聞いている風情だった文次郎が、不意に三木ヱ門の元結をくいと引っ張った。

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