その間に伊作は八左ヱ門の結髪を小房に分けてちまちま編み込み、まるでタコの足のような髪型を作って満足げな顔をしている。それに気付いた八左ヱ門は縄状に綯われた自分の髪に触れて、「器用ですね」と苦笑いした。
「……今はあれも大人しくしてるし、まあ、対面くらいなら大丈夫かなあ」
「わあい!」
編まれた髪をねじりつつ八左ヱ門が言うと、左吉と団蔵はぱちんと手を打ち合せて歓声を上げた。
"小猿"と言い切るのは飽くまで避けながら、大きな声を出さないこと、目の前で急に動いて驚かせないこと、生物委員の注意を聞くこと、と早くもそわそわしている一年生たちに言い含めてから、八左ヱ門は文次郎に正対してきちんと膝を揃えた。
そのまま無言で頭を下げる。
沈黙の中に万感の思いを込めた座礼は、傍で見ている三木ヱ門がつられて姿勢を正すほど粛然としていた。
しかし下げた頭の上でぴんぴんと八方に広がるタコの足がどう見ても台無しだ。
ふ、と空気の漏れるような声で文次郎が笑った。
「どうにも格好がつかねぇな」
「私はそういう役回りなんです」
顔を上げろと編んだ髪の一房を引かれた八左ヱ門は、冗談とも本気ともつかない表情でするりとそう口にした。
文次郎が首を傾げる。
「それが損だと思うか?」
「いいえ」