「左吉、猿を見たの?」
「うん。離れた所から」
「いいなー! 竹谷先輩、僕も撫でたいです」
異界妖号の背に乗って走り過ぎた小猿をちらっと目にしただけでちゃんとご対面していない。だけど一瞬見えた姿は変わっていたけど可愛かった。異国の動物に触れる機会なんて滅多にないのだから、是非ともひと撫でしてみたい!
右袖を左吉、左袖を団蔵、髪を伊作に取られて前後左右に揺さぶられながら八左ヱ門があわあわする。
「ちょっと待って目が回る……部外者に触らせるのはちょっとまずいんだ。脱走させておいてこう言うのもなんだけど、本当は乳母日傘で扱わなきゃいけない預かり物なんだよ、あいつ」
「でも、逞しいですよ」
「だけど図太いですよ」
一年生たちが即座に反論する。
そこにいれば安穏は保障される檻を破ってどこかでなくした首飾りを探しに行き、手に入れた食べ物を角場でかじりつつ左門と格闘しつつ捕獲されてもう一度逃げ出し、馬を操りきみこに追われながら木の上から潮江先輩に飛びかかって、ついには目当てのものを取り返す――うん、確かに逞しくて図太い。
八左ヱ門は困ったように三木ヱ門の方を見るが、頭の中で小猿の行動をなぞってみた三木ヱ門は、一年坊主たちの言う通りだと納得してしまった。
「止めてくれよ田村……あのな、それに、小さいけど結構凶暴なんだ。噛んだり引っ掻いたりするし」
「……生物の一年たちは、平気で触ってた」
ふらつきながら話は聞いていたのか、文次郎がのろのろと口を開く。
「うちのちびたちはあれでも生き物の扱いに慣れてます」
「一平が抱えても大人しくしていたが……でも、嫌なら嫌がるだろ」
触らせるか触らせないかは小猿の判断に任せるとして、こいつらを猿に会わせてやってくれねぇかと文次郎が頼むと、八左ヱ門はしばし考え込んだ。