言うだけ言った文次郎はまぶたを押さえて下を向き、伊作は若干錯乱していた時の雷蔵のように、八左ヱ門の髪をすくい上げて意味もなくくるくるとねじっている。
「……先輩たち、なんか変だな。これってどういう状況なんですか?」
髪を引っ張られて首をぐらぐらさせている八左ヱ門を横目に、団蔵がひそひそ声で尋ねる。三木ヱ門は肩をすくめ、自分の喉を指差した。
「鼻と喉に効く薬湯の蒸気を吸い込んだせいですごく眠くなっちゃって、ぼんやりしてらっしゃるんだ」
「この匂いがそれ? うわぁ、おっかないな」
おどけた仕草で鼻を覆い隠しつつ、八左ヱ門は俯いている文次郎をしげしげと見た。それから三木ヱ門と左吉と団蔵の方を向いて苦笑いのような表情を浮かべ、もう一段声を落として、ぼそっと言う。
「君らの委員長は格好良いな」
「はい」
「はいって言ったよこの子」
「竹谷先輩、あの猿はもう帰っちゃうんですか?」
俺もがんばろ、と呟く八左ヱ門の袖を引いて左吉が真剣な顔をする。
「そうだよ。この後すぐ出る――」
「お願いですから、一度だけ撫でさせていただけませんか」
「んん?」
「今この機会を逃したら僕の一生の悔いとして残ります!」
何を大げさな――と一笑に付せない真摯さで左吉が訴える。八左ヱ門は目をぱちくりさせ、三木ヱ門は「そんなにあの猿が気に入ったのか」と半ば呆れながら感心し、団蔵はきらりと目を輝かせた。