迷子にさせると手間がかかる――という文次郎の言葉になぜか絶句した八左ヱ門は、次の瞬間床に片方の拳をつき、首領から密命を申し付けられた間者のようなきっちりした礼をした。
「……重々気を付けます。潮江先輩にも、それに田村と左吉にも、ご迷惑おかけしました」
五年生に折り目正しく頭を下げられて、文次郎は鷹揚に構えているが、三木ヱ門と左吉は少々うろたえた。
「えーと……とにかくこれで、生物委員会関係の面倒事はおしまいなんですよね?」
小猿が無事に忍術学園を出て帰路についてくれれば三木ヱ門としては万事解決、大事な首は晴れて元通り自分の手の中に返ってくる。小猿の素性を黙っていればその見返りに火薬や火器を融通してくれると八左ヱ門は言ったが、その尻馬に乗ってあれこれねだれるほど三木ヱ門は図太くない。
「面倒とはひどいな。いやまぁ、確かに"面倒"だったけどさ」
念を押す三木ヱ門に八左ヱ門は頭を掻きつつ苦笑いする。話を知った以上は首を懸けろと池の端で凄んでから、まだそれほどの時間は経っていない。
「たぁ、けや」
「はいっ」
妙なところで名前を区切って文次郎に呼ばれた八左ヱ門がびしっと背中を伸ばした。
文次郎は胡座をかいた膝の上に右肘を置き、その腕で頬杖をついて頭が揺れないように固定して、下から掬い上げるように八左ヱ門の顔を見た。
「……どうしても足らなけりゃ、次からは、言え」
「へ?」
きょとんとする八左ヱ門に、文次郎は「予算」とぶつりと言う。
「余剰は無え。が、予備費は……それも大して無え、が」
それがないと二進も三進も行かなくなるような事情がある、是が非でも必要な予算ならば、
「学園長を逆さに振ってでも学園の金蔵から引き出してやる。……から、てめえひとりでごちゃごちゃするんじゃねえ」