うさぎの目で伊作はしばしば瞬きをして、首を傾げた。
「文次郎、死んだ?」
縁起でもないことを言う。
「……で、ない」
律義に答えて、ぎりぎりと文次郎が頭を起こす。舌がこんにゃくに化けてしまったかのように喋りづらそうにしながら、伊作は苦労して言葉を並べる。
「僕がとがめらえう――咎められる――のは、報告書を、てけ……適当に書いたこと、だけ、って聞こえた」
「そう言った」
「なんで?」
「他の、事は、会計の、管轄じゃ、ない」
「でも、だあっててくえうわけでも、ない?」
「埒外。黙るか、吐くか、は、てめえで、決めろ」
長く話せば舌がもつれると承知の文次郎は言葉を短く切っているものの、それがもどかしいのか、喋りながら軽く握った拳で頬を小突いている。ふたりのやり取りを聞いている方は聞いている方で、またじれったい。
「収支報告書の記載不備は検めるけれど、善法寺先輩がなさった諸々を我々会計委員会が全学に向けて告発することはない――と、そういうことですよね」
のたくたした会話を三木ヱ門がまとめて言うと、文次郎は珍しく「うん」とこっくりした。
まるで団蔵がするような仕草をするということは、気力を保ってはいるが相当に眠いようだ。はらはらする三木ヱ門と左吉をよそに乱暴に目をこすると、茫洋とした視線を伊作に向けて、言う。
「それと、予算申請」