とろりとして抑揚のない喋り方を訝しんでみれば、伊作は落ちかかるまぶたと格闘中で、三郎が時々するような半眼になっていた。
「さっき配った薬湯は、塵や埃に反応し過ぎる神経をなだめて症状を落ち着かせる効果があるもので」
副作用として眠くなるんだけどその時は寝ちゃえばいいだけで心配いらない。さっき外で薬湯を飲んでいった人たちも今頃うとうとしているはずだ。ああ、そちらには副作用のことはきちんと伝えて、このあとは慎重を要する作業をしないように注意してあるから大丈夫。
深い沼の底で大鯰が吐き出した気泡が濁った水の中を上昇しながらぷくぷくと弾ける――という、お伽話のような抽象的な図が三木ヱ門の頭に浮かんだ。
喋る内容は整然としているが、伊作の口跡は歯痒くなるくらい鈍(のろ)い。
さっき凄い勢いで首が垂れたのは、一瞬睡魔に負けたためだったらしい。反省していないことはないのだろうけれど。
「最前から咳をしていらした潮江先輩はともかく、」
一度鼻をかんですっきりしている左吉が、首がすわらない赤ん坊のように頭をふらつかせる六年生たちを交互に見ながら言う。
「善法寺先輩にも薬の湯気が効いている――、薬湯そのものを飲んでいないから遅れて効果が出て来たのでしょうけど、と言うことは、善法寺先輩も偽風邪にやられていたんですね」
まさに自分が蒔いた種だ、とまでは口にせず肩をすくめてみせる。
「……僕のくしゃみは、それじゃあただ埃を吸っちゃっただけか」
そう独り言を言って、三木ヱ門は自分の鼻の頭をとんとんと叩いた。
ことごとく不破先輩に見られて不必要に恥ずかしい思いをしたものだ。もしかして「寝ろ」と言われた五年生たちがすとんと眠ってしまったのは、薬湯の匂いのせいもあるのかな。
「ところで、文次郎……たぶん、総ざらい、話した、と思うんだけど」
「そうだな」
口を開けばもたついた喋り方になるのが嫌なのか、文次郎は短く言って、頑張ってまぶたをこじ開けている伊作をひたと見た。