まだ医務室の中に濃く残っている薬湯の匂いがふっと鼻先を漂う。
外廊下にごろごろしていた涙と鼻水で水没しそうな人の群れは、駆け回る生き物たちが悪気なく振りまく塵や埃にちくちくと攻撃された、気の毒にも「敏感過ぎた人」だったということで……流行り病のはしりのような状況が起きていたというのに、道理で保健委員長は慌てもせずすぐに対応策が出て来たわけだ。
症状の原因をとっくにご存知だったんだから。
「他の保健委員はこのことを知らないんですよね?」
念のためにと左吉が確認すると、伊作は垂れたままの首をわずかに上下させた。その首の角度は骨が折れているのではと一瞬ぎょっとするほど急で、「がっくり来ている人」と題をつけて掛軸にできそうなくらい、伊作は落ち込んでいる。
「僕が不運につきまとわれているのは周知の事実で、自分の身の上に起こる分には、もう慣れたからいいんだけど、さ。僕のせいで他の人まで不運な目に遭わせたのは――しかもそれが健康被害だったのは、保健委員長として一番してはいけないことをしてしまった、と承知している」
床板の節目を熱心に数えているかのようにじっと真下に視線を落としたまま、伊作がもごもごと言う。
八左ヱ門を屋根まで追い掛け回して石礫を浴びせるという普段の伊作からは想像もつかない行動もそうだが、医務室で訊問を始めてからいやにはしゃいでみせたり黙念として俯いたり、気性が乱高下して落ち着きがなかったのは――それでは、止むことなく罪悪感に心を揺さぶられていたから、なのか。
ちょっと「甘い」見方かなと思いつつ、今にも平伏しそうな伊作から文次郎に目を移して、三木ヱ門は思わずきょとんとした。