伊作は膝行して文次郎ににじり寄ると、呆然と頬を押さえている文次郎の手首をひょいと掴んで押し下げ、呆気にとられている三木ヱ門に向かって言った。
「ここのとこ、よーく見てごらん」
肉の薄い頬の真ん中を指差す。
「……何だか分かりませんが」
「もうちょっと近寄って」
「はあ」
言われるままに腰を上げて身を乗り出し、伊作が示している辺りに目を近付ける。招き寄せられた左吉も膝立ちになって三木ヱ門と顔を並べ、興味深そうにまじまじと覗き込む。
後輩ふたりに至近距離で横顔を見詰められてわずかに身を引いた文次郎の目が、ふらっと泳いだ。
「かさかさしてる?」
左吉が首を捻りつつ言う。
直射日光に当たり放題で鍛錬と称し年がら年中泥だらけになっている割には、そばかすも面皰も見当たらない、日焼けしているだけの割と滑らかそうな肌ではある。しかし、脂っ気がないぶん毛羽立っているようにも見える――、と言うより、
「……脱皮しかけてる?」
「俺はトカゲか!?」
左吉と反対側に首を傾けながらの三木ヱ門の呟きに文次郎が憤る。
その矛先は伊作に向いている。
うろこ状に剥がれ落ちつつある肌の薄皮をじっと観察しながら、伊作は思慮深そうな口振りで言う。
「実験がうまくいけば、表皮が一枚剥がれて明日の朝にはつるつるすべすべのゆで卵肌になってる」
年頃の娘じゃあるまいしそんなもん嬉しくねえって言うか人体実験か、と文次郎が噛み付きそうな顔をした。
「聞きたくねえが、うまくいかなかったら?」