「いいえ、滅多にありません。健康には気を付けていますから」
断固! という語調で左吉が否定する。
伊作は小さく何度か頷き、自分の鼻の付け根を指先で軽く叩いた。
「一年のしんべヱはアレルギー性鼻炎持ちだそうだね」
塵や埃が駄目なのか花粉症なのか分からないけど、あれはしんどそうだ、とわずかに眉を曇らせる。
「明らかに本人の体積以上の鼻水が出てますけど」
「人体の神秘だよね」
それで片付けていい話だろうか。
三木ヱ門と同じことを思ったのか物言いたげな表情をした文次郎へ、今度はくるりと顔を向けて、伊作は首を傾げる。
「顔、痒くない?」
「顔?」
「乙女子の化粧のあと、さ」
問われた文次郎がはたと頬に手を当てる。あの白塗りを落としてから、そう言えば頻繁に頬をこすったり叩いたりしている――と、三木ヱ門がその横顔を見上げて思い出していると、文次郎はまたくるくると手のひらでこすりながら「痒いと言うよりひりつく」と答えた。
「仙蔵が面白がって白粉を塗り込めやがったから、落とすのに力がいったせいだろ」
「糠袋じゃなくて洗顔料を使っただろ。キラキラした粒が混ざった白い粉状のやつ」
「ああ。お前が持って来た化粧落とし――」
言い掛けて、がくっと文次郎の顎が落ちた。
まさか、と呻く。
「――あれも何かの試薬だった、って話になるのか」
「薬じゃないんだけど、開発中の品ではある」