そのまま床に目を落として考え込んでいる。
やがてもう一度文次郎に向き合った時は、いくらか気後れするような顔をしていた。
「考えをまとめたいので、あとで……で、いいですか」
「分かった」
素早く文次郎が頷く。
兵助がぱちぱちと瞬きをした。文次郎の傍らに控える三木ヱ門は、その睫毛がはためくのをしばらく観察した。
「……別に監視はつけないが」
兵助の大きい目にじいっと見詰められながら、文次郎も瞬きした。
「お前を信用する」
「不正を企んでいるのにですか」
「二度はない、とも信じる」
三木ヱ門の目から見ても、地獄の会計委員長らしからぬずいぶんと「優しい」対応だ。
しかし、その物分かりの良さがかえって兵助には警戒心を呼び起こしたらしい。自分の耳に入った今の言葉は空耳ではなかろうかと、半ばきょとんとしていた兵助の表情がふと固くなった。
真実、全面的に信用しているのか、それとも「信じる」と言いながら何かの措置を講じているのか、判じかねているのだ。
兵助の睫毛の揺れが止まった。軽く頭を下げる。
「……では、後日、ご説明に上がります」
「ああ。待っている」
どちらにしてもここで謀を重ねれば強烈なしっぺ返しが来るのは確定している、と思い至ったようだ。
兵助はもう一度、今度はやや丁寧に頭を下げると、するすると衝立の内側から出て行った。
そのしっかりした足取りから察するに、ダークマター製ぬるぬるの後遺症は幸い無いようだった。
「善法寺先輩」
不意に左吉が鋭い声を上げた。
兵助と反対側の衝立の端にじりじり移動していた伊作がぴょんと背中を伸ばす。文次郎と三木ヱ門が一斉に目を向けると、へへへと困り笑いをした。
「ああ、見つかっちゃった」
「そりゃそうですよ」
思わず言葉が砕けた三木ヱ門が呆れ顔をする。ひとり減りふたり減り、だいぶ人数を減らした輪の中から抜け出ようとして気付かない訳がない。
「待たせたな。続きだ」
文次郎がにっと口の端を吊り上げてみせる。伊作は首をすくめ、「はい」と疲れたような返事をした。