文次郎がひどく苦い表情に変わる。
仙蔵がこっそり耳打ちして、それを聞いた相手がこんな反応をしそうなことに、山ほど心当たりがあるらしい。
しかし三木ヱ門は、
「……からかわれてるんじゃないかなぁ」
と、口には出せずにもぞもぞと呟いた。
心当たりがあると仙蔵は知っているから、意味あり気に内緒話をして見せて、こっそりとそう言い含められた兵助も「大変なことを聞いた」演技をしている。
根拠はないけれど、そんなふうに感じる。火薬と同じく会計には遺恨がある――ない委員会の方が珍しい、と言うより無い――作法委員長による、ちょっとした意趣返しの手伝いだ。
仲良くやれ、という駄目押しから察するに、文次郎が三木ヱ門に対して妙に甘いとかなんとか話した(ように思わせた)のだろう。
「とにかく」
気を取り直して、文次郎は兵助に厳しい目を向ける。
「理由があるなら話せ。今すぐは無理だというなら後日でいい。ただし、他の五年と口裏合わせをしやがったら、その時は覚悟しておけ」
真面目な表情に戻った兵助は、その言葉を聞いてぺこりと頭を下げた。
「……ご厚情、感謝します」