……そう言えば。
地下道へ八左ヱ門と共に落下してきた作法委員たちは、何故だか皆、ひそひそ声で喋っていた。その話し方には何か理由があるのかと三木ヱ門が尋ねると、仙蔵は「気になるなら気にしていろ」と笑ってはぐらかした。
それより前、長屋の廊下で同級生たちと立ち話をしていた時、喜八郎が猫の鳴き真似を――それも大きい声で――すると、庭先の陽だまりで寛いでいたすずめはわっと飛び立った。
……あれも「驚いた」からだ。
小さくて用心深いすずめは、びっくりしたらただちに逃げる。生存競争に勝ち残るためのその本能ばかりは、いくら鍛えたって変えられないだろう。
あのひそひそ喋りは、何か事が起きた現場の近くにいる忍雀を驚かせない為――だったとか。
そんな馬鹿な。……いや、鷹狩りの鷹の代わりにすずめを調教して妙な方向で成功させた立花先輩なら、それも有りなのか?
こういう言い方をするということは、今この時にも、表には忍雀が控えているのか。
ぐるぐると考えて目をうろつかせる三木ヱ門に仙蔵は「仲良くやれよ」と謎の言葉を投げかけ、ひらりと踵を返して衝立から出て行った。
とん、と軽い音を立てて、医務室の引き戸が開いて閉まる。
「何をしに来たんだあいつは、本当に」
苦々しげに言った文次郎は、わざとらしく天井の隅の方を向いている兵助に、
「何を言われたのか知らんが、与太話だぞ」
と釘を刺した。
兵助の視線がゆっくり上から降りてくる。
「あれが与太なんですか」
あれ、の部分に妙に力を込める。