却下につぐ却下をかいくぐって少しでも予算を確保したいという切実な理由と、ささやかな反骨と、少しの意趣返し。いざとなれば文次郎の頭越しに学園長決済という奥の手がある三郎は、遊び心と冒険心だろうか。
本当のところ、ひとかたならず火薬委員の世話になっている三木ヱ門としては、いかな会計委員長の意見と言えど「大した仕事もない――」には賛同しがたい。……と思ったらその場で意見できる強さを身につけなくちゃ。
「そう意固地になるな、久々知」
恐るべきすずめの間者がこの辺りの話も運んで来ていたのか、それとも単に強張る兵助の緊張を緩めてやろうと親切心を発揮したのか、仙蔵がずいっと膝を乗り出した。
目を瞠ったままそちらへ顔を振り向けた兵助が若干身を引く。
「文次郎にお前の思うところを言ってやれ。この石頭は"察する"なんて繊細な芸当はできん。言われなきゃ気付かんのだ」
「……言い分はあります。ありますが、先輩からすれば聞く価値もない理由です。話すまでもない」
「それは――」
「それは俺が判断することだ」
訳知り顔に助言をしようとする仙蔵より先に文次郎が言った。
「説明できるような理由があるなら、何であろうと聞く。聞いた上でやっぱりアホかと思ったらそう言う。そうでなければ、」
こちらが納得せざるをえないような理が、少しはあったならば。
「――その時は、善処する」
「玉虫色の言葉だな」
そう茶々を入れて文次郎に睨まれた仙蔵は、もうひと膝ぶん兵助に近寄ると、警戒する兵助に小声でぼそぼそと何か告げた。