文次郎が挙げ連ねた推論を認めるような言葉を兵助はまだ言っていない。見るからにうちしおれて肩を落としている姿は言葉よりも雄弁だが、それでも頑なに口を結んだままなのは、反抗的と言うほど刺々しくはないものの、会計委員長に対するせめてもの意地であるようだった。
火薬委員会委員長代理が"落ちた"のを確信して、文次郎は無言の兵助を掬い上げるような目でじろりと睨んだ。
「会計の目を盗んで予算をピンハネしようとは大した度胸だが、その割には随分とやり方が杜撰だったな」
否定も肯定もせず兵助は黙っている。睨み返すでもなく、最初に三木ヱ門が衝立の内側を覗いた時のように、見開いた目を瞬きもせずにじっと文次郎と見据えている。
三木ヱ門にはその態度が、この事態に関して思うところはありますがあなたには敢えて言いません――という、沈黙による表明にも見えた。
予算会議のたびに大揉めに揉め、その挙句に支給額を申請額の八掛けか七掛けまで無理矢理引き下げられるのにうんざりして、会計に報告せず自分たちの裁量だけで使える予算があればいいのにと考えたのは本当だろう。しかし以前、文次郎が「大した仕事も無いくせに予算だけはふんだくっていきやがる」と火薬委員会を軽んじる発言をしたのを、三木ヱ門は覚えている。
――潮江先輩に一泡吹かせてやろうって意図も、もしかすると少しくらいあったのかな。