折り重なって輻輳する悲鳴の間隙を縫って、文次郎の声が飛んだ。
「小平太、てめぇっ!」
「おお、おとめごじゃないか。なんでこんな所にいるんだ?」
落下した一団と自分へ向けられた怒気にまったく頓着する気のない小平太が、あっけらかんと言い放つ。
「まだその化粧をしているのか。それにしても似合わないな」
「うるせえ。落とすのに準備がいるんだ、仕方ねえだろ」
小平太に後続していた体育委員たちは委員長が足を止めたことにホッとしたのも束の間、白塗りの文次郎を目にするや、掘り進んで来た穴の向こうへ一足飛びに飛び退いた。妖怪ではなく潮江先輩だ、と慌てて二度目の注釈をする三木ヱ門に、小平太がからからと笑う。
「地が地だから妖怪じみたご面相になってるけど、この白塗りは、六年が変姿術の授業でやった神事用の化粧なんだ。神聖なものなんだぞ」
「あ。それじゃあ、"おとめご"って"乙女子"ですか?」
空中に字を書いて三治郎が尋ねると、小平太はうなずいて、文次郎の顔を指さした。
「そう。こいつ、本当は七歳の女の子がする役目がくじ引きで当たってしまったから――」
「言うな! それと指を差すな!」
べちっと手をはたき落とされたが、めげずに続ける。
「――こういう、気色悪いことになったわけだ」
「気色悪いと言うより、普通に怖いです……」
臆病なタヌキのように暗がりで目ばかり光らせ、穴の奥から誰かがびくびくした声で言う。それを聞いて、小平太がポンと手を叩いた。
「怖いと言えば、文次郎、山本シナ先生がすぐ食堂へ来るようにと仰せだぞ」
「え? 俺が、なんで」
自分を指して文次郎がきょとんとする。さあなあ、と首を振った小平太は、急に痛ましそうな顔をした。
「事情は知らんが、大黒天女もかくやの迫力だったぞ。一体何をやらかしたんだ?」