その話を裏返せば、火薬委員以外の生徒は自由な出入りができない。
そして、火薬委員でも一・二年生の伊助や三郎次、四年生ながら編入生のタカ丸だけでは、焔硝蔵の開錠もできない。
人目に触れては都合が悪いものをこっそり隠しておくには、兵助にとってうってつけの場所だ。
「同じ企みを共有して協力し合っているなら、鉢屋にとっても、だ」
「――あ。"つづら代"……」
文次郎の言葉に触発されて三木ヱ門が口走ると、ひゅっと息を吸い込んだ兵助が薄く唇を噛んだ。
つづら代や鳥の子玉代として空計上した予算は手元に残る。それは手形や小切手ではなく現金で、その大部分は小銭だから、いざ隠すとなると重いしかさばるという物理的な問題がある。
焔硝蔵の隅にそれを入れておく箱なりつづらなりを置いておけば、兵助は委員会の役目があるような顔をして、三郎はその兵助に用事があるような振りをして、周囲に怪しまれることなく焔硝蔵に出入りしこつこつと蓄財に励むことができる。
「伊助」の三郎は兵助に急を知らせるついでに、そこに保管してある"裏予算"を確かめていた――
「推測を重ねるばっかりで今のところは確とした証しはねえが、現時点から会計委員会が監査に入るまでの間にお前か土井先生が焔硝蔵に出入りしたら、それは証拠隠滅を図ったものと見做す」
「それでは委員会の仕事ができません。土井先生は授業でも火薬を使われます」
「この訊問が終わったらすぐに監査にうつる。お前が立ち会うのは勿論構わない」
だから心配するなと口の端を吊り上げてみせる文次郎の前で、ぴんと背中を強張らせた兵助が、次の瞬間へなへなと崩れるように肩を落とした。