内緒話がしたいなら、それこそふたり揃って蔵の中へこもればいい。
「それは」
文次郎に向けた兵助の目は泳がない。しかしその代わり一点を見据えたまま動かず、その視線の先に焦点が合っているようでもない。
「中に入ってしまうと誰かが焔硝蔵へ来ても分からないから、私が外に残って、」
「だとしてもだ」
さっくりと文次郎が兵助の反論を遮る。
「鉢屋がそれまでと違う変装をしていれば、蔵の外でお前と喋っていたってそれが鉢屋だと遠目には分からない。その暇がなかった、は通らねえぞ。田村が焔硝蔵に着くまでは時間があったし、あいつは変装だけじゃなく早変わりも得意だろう。そもそも、どうして外から来る者を警戒する必要がある」
監査に入った先で不審点を指摘する時さながらに、文次郎は理詰めにびしびしと畳み掛ける。言い返す糸口を掴めない兵助は焦りと緊張で口が乾くのか、しきりに唇を舐めている。
理や知をすっ飛ばしてすぐに手が出るような印象が強い――そして実際そんな面もある――けど、潮江先輩は決して力押し一辺倒の人物ではない、と三木ヱ門は委員長の横顔を眺めつつ改めて思った。六年生になる頃は自分もあんなふうになれるのかなと、団蔵が考え込んでいたっけ。
「田村」
「はいっ」
不意に名前を呼ばれたのに驚いて、予想外に大きい声が出た。呼んだ文次郎が一瞬止まり、「良い返事だ」と冗談とも本気ともつかないように褒める。
「お前は行き慣れているから知っているだろう。焔硝蔵の出入りは厳重だな?」
「はい。普段は施錠されているので土井先生か久々知先輩に鍵を開けていただいた上で、中に入るには必ず一名以上の火薬委員の立会が必要です」
そうでなければ、火薬委員に頼んで必要な分だけの火薬を取り出して貰う。