思わぬところから反応が来た伊作があわあわする。
「えーと、うん、来たよ、来たけど心配ない。もう部屋に帰ったし」
来たどころか並んで座って居眠りして、その前は掴み合い寸前の口論までしているのに、兵助はついさっきまで雷蔵と一緒にいたことをまるで覚えていないらしい。伊作のあやふやな言い方で、かえって不安が増したような顔になる。
「それでも、うわ言を言うって相当でしょう。発熱ですか。毒にでも中ったんですか」
「だーいじょうぶだってば。保健委員長の僕が言うんだから」
むずかる子供をあやすような調子で伊作が押し切る。疑問への説明には全くなっていないが、兵助は「……善法寺先輩がそう仰るなら」と、不承げな色は残しながらも引き下がった。
「偽風邪の話は後だ。久々知が伊助だと言った鉢屋と焔硝蔵で何をしていた。――いや、違うな」
火薬委員ではない、田村や仙蔵のように火器火薬の類を得手にしているのでもない鉢屋が、なんで放課後の焔硝蔵にいた。
切り口を変えた文次郎の質問を聞いた途端、兵助の顔色が変わった。
「食草園で私に会った鉢屋先輩が、私が予算関連の不審点を嗅ぎ回っていると久々知先輩に伝えに行ったのではありませんか?」
食草園から焔硝蔵へ向かう途中で三木ヱ門は清八に出くわした。そこでのやり取りに時間を食ったから、あとから発った三郎は余裕を持って先回りできたはずだ。しかし、そこに三郎がいると三木ヱ門にばれてはまずいので、蔵の中に入ったのでは――
三木ヱ門が推論を述べると、文次郎は自分の頬を指先でちょっと摘んで仙蔵を見た。
「勿論それもあるんだろうが――鉢屋の今日の顔は竹谷だったよな」
「ああ。おかげで役に立った」
「言い方が怖えぇよ。で、いつもの鉢屋は不破の顔だが、あいつは変装名人だ。田村より先に焔硝蔵へ行ったとして、そこでまた他の誰かに顔を変えておけば、後から来た田村と顔を合わせるのに不都合はねえ筈だ」
それなのに、わざわざ蔵の中と外に分かれて話すというのは不自然だ。