虎若は孫次郎を捕まえたまま少しのあいだ宙空に視線をさまよわせ、二巡目の真言を唱え始めていた三治郎を手招きして、3人でこそこそと相談を始める。
「もう戻って来てるってことは、裏山にはいなかったんだ」
「学園の外には出てないのかな。一平はどうしたんだろ?」
「保健のところでしょ。伊賀崎先輩の方はまだ合図がないね」
「やっぱり、僕たちも分かれて探そっか」
「でも草むらとか木の上や狭い場所はジュンコ担当だし、床下はもう大概見たよ」
「うーん。最後の最後は服をめくって回らなきゃなんないかなあ」
目の前で内緒話をされるというのも気になるが、漏れ聞こえる言葉の断片はもっと引っ掛かる。しかし詳しく聞かないほうがいいような気配もする。服を、と言いながら孫次郎が少し振り向いたので、三木ヱ門は思わず襟元を押さえて身を引いた。
「そんなネズミみたいな大きさの猿なんて、いるのか?」
生物委員たちにつられたひそひそ声で、文次郎が三木ヱ門に尋ねる。
「私は見たことがないですが……探しているくらいだから、いるんでしょう」
「だよなあ。唐天竺や南蛮の猿かな」
特に含みもなく文次郎が思いつきを口にした瞬間、額を寄せ合っていた一年生たちがびしっと固まった。
妙な緊張が一座に走る。
そしてまた次の瞬間、上に載せた人間ごと、一帯の地面が一斉に陥没した。
「わああぁっ!?」