きり丸は物売りのバイトをした時に中途半端な数だけ売れ残ったものをあれこれ行李の中に溜めていた。売るあてもなく死蔵していたのではなく、例えば五枚組の皿を売ったあとしばらく間をおいてから「割れたり欠けたりしていませんか」と補充の御用聞きに行ったり、まとめ買いするような物が急ぎで少量必要になった人にすり寄って「いいものありますよ」と囁いたりする為だそうで、それでも手元に残る場合は何種類かづつ袋に詰めて「余り物に福袋」として売る計画だというが、それはともかく。
「そういうストック品を少しと、きり丸が山菜採りのついでに採って来たっていう薬草と、図書委員会が試作した落とし紙を買ったんだけど、それぞれに会計印付きの領収書を発行したら、それは"乱発"になる――と思った」
なるよね? と言いたげに伊作が首をかしげると、文次郎はそれに直接答えず三木ヱ門を呼んだ。
「俺はまだ詳しく見てねぇが、保健の収支報告書や添付の領収書に"雀用薬餌代"ってやつの内訳は記載してあったか」
尋ねられて、頭の中でぺらぺらと帳面をめくり直してみる。
三木ヱ門も首をひねった。
「ありませんでした。保健委員会がすずめの餌、という点に引っ掛かったので、それ以外のことが書いてあれば記憶に残ったと思います」
「詳細は監査の時に口頭で、じゃ、駄目かな」
「三日以内に再提出しろ」
手加減を期待する伊作を、文次郎はすっぱり斬り捨てた。