額をさすりながら、伊作は目に見えてしおれた。
この機に乗じてというつもりでもなかったが、ふと保健委員会が提出した収支報告書のことを思い出し、三木ヱ門は「お伺いしますが」としょげ返る伊作に呼び掛けた。
「なーに」
自力で出られない落とし穴の底に落ち込んだような表情と声で顔を上げる。
文次郎の叱責が効いたのか工作が明るみに出て絶望しているのか、その両方なのか今ひとつ分からないが、まともに見るとちょっと背筋が寒くなるほど暗い目が怖い。視線を合わせっぱなしにしていたら唐突に甲高い悲鳴を上げるんじゃないかと、三木ヱ門は妙な想像をした。
ぷるぷると首を振ってそれを打ち消し、改めて尋ねる。
「保健委員会でもすずめを飼ったという話は聞きませんが、報告書にあった雀用薬餌代という名目の出費は、どういう使途なのですか」
「"でも"」
仙蔵が意味深長に呟き、聞きとがめた文次郎が不審げな目を級友に向ける。
「何の為に天井裏ですずめを飼ってたんだ、お前は」
「追々知ることになる」
にんまりと笑って仙蔵は軽く受け流す。そして三木ヱ門の方を見て、三木ヱ門の注意をしっかり引いてから、もう一度思わせ振りににっこりしてみせる。
大量の薬湯を煎じていた医務室の中は湿っぽいのに、思わず乾いた咳が出た。
「……失礼しました。文字通りに読めば、怪我か病気で弱ったすずめ用の餌代と取れますけれど」
「あー、それは……つまり雑費だよ」
油紙十枚とか晒し木綿六尺とか、一括購入とは別の細々した支出をひとまとめにしたものだ、とあまり臆したふうもなく伊作が言う。