ひゅっと背中を伸ばした伊作がお盆を抱え直す。
乾いた唇を舐めて湿し、三木ヱ門は文次郎に目顔で了解をとってから、三たび口を開いた。
「三重策から話を続けます。……と言うよりそこから少し戻りますが、竹谷先輩を屋根の上で追い回すのに前後して、生物委員の一平と一緒に行動しておられましたね」
「ひぇ」
素っ頓狂な声が伊作の口から漏れた。吸い込んだ空気が変な所へ入ったらしく、平手で胸を叩いて目を白黒させる。
「それより更に前に戻ると、私と潮江先輩が捕獲道具を持った生物委員の一年生たちと最初に会った時に――」
一平はどうしたんだろうという質問に、保健のところでしょと誰かが答えた。
何の為に保健のところに行ったのか、という話にはならなかった。つまり、「何か」があった時は生物委員が伊作のもとへ行って共に行動するという約束ができていた、と三木ヱ門は考えた。
その「何か」とは、ある生き物――小猿と明言するのは仙蔵がいるので一応避けた――の身に変事が起きた時だ。
と、思っていた。
「話を聞き込んでみると、善法寺先輩と一平が薬草園で草を摘んで、屋根裏や床下や人があまり出入りしない場所にそれを置いて回っている――ということは分かりました」
「……防虫効果がある草だよ。怪しいものじゃない」
長次のようにもそもそと伊作が主張する。
三木ヱ門は軽くうなずき、「それは本当だと思います」とあっさり言った。
「変事が出来した時に何故虫除けなのかと、妙に思ってはいましたが、――赤ん坊に大人と同じ量の薬は投与できないのと逆に、虫ではなくても身の丈があまりに小さい生き物には、虫除け草の効果が及んでしまう。だからその生き物は、その草が置いてある、隠れるにはちょうどいい場所には近付きたがらない――という、煙を使わない"燻り出し"をしたのではありませんか?」
だから小猿は人目につく屋外ばかりを移動していた。
潜伏できる場所を潰してそうするように仕向け、発見しやすくした。迂遠な方法だが、実際、小猿は二度の脱走とも建物の外を主に走り回っている。
「えぇと……ねえ……半分、合ってる」
不味いものを口いっぱいに頬張っているような口調で伊作が認めた。