「すずめで思い出しました。昨日までに各委員会が提出した今月の収支報告書、ざっと目を通して気が付いたんですが、いくつか不審な点があります」
「すずめが不審?」
それこそ不審な表情で文次郎が復唱する。三木ヱ門は生真面目に頷いて、日の当たる地面の上でちょこちょこ動き回っているスズメの群れをチラッと見た。
冬に備えて沢山食べておく時期だ。スズメはポカポカと暖かい日差しを浴びながら、忙しく土を掻いたり何かついばんだりしている。
「生物委員会か」
「それに保健、図書、作法、体育、火薬、学級委員長の各委員会」
「用具以外の全部かよ」
「月初に全額一括で支出になっていたので、用具がどこかの委員会に今月の予算を取られたというのは本当のようです」
用具委員会が頻繁に学園の外へ壊れもの修理に出掛けていたのを、会計委員長が「左官屋か鋳物師に職替えしたのか」とからかい、用具委員長と壮絶な取っ組み合いをしたのは多くの生徒が見ている。
が、実は用具委員会はひと月分の予算を賭け代に他の委員会と勝負して負けて全額かっぱがれ、その補填のために出稼ぎに行っているのだという噂は、何で勝負をしたのか、相手はどこなのかがはっきりしないので、話を面白くするための尾ひれだと思われていた。
文次郎はそれを聞くと、不満そうに片方の眉をつり上げた。
「て事は、あの野郎、図星を指されて逆ギレしやがったのか」
「……正当ギレだと思います」
それはともかく――と三木ヱ門が仕切り直そうとした時、こちらへ走り寄って来る人影が見えた。
その人影はまともに白塗りの文次郎の姿が目に入ったらしい。唐突に甲走った悲鳴を上げて体をすくませ、それでも走り続けていた足が急には止まらず、スズメの群れを散り散りにさせて派手に転んだ。