それは落とし穴に落とされたうえ正体不明のぬるぬるまみれにされて理性をぶっ飛ばされたからですよ――と教えてはいけない気がして、三木ヱ門が伊作を見ると、伊作も目配せを返して首を小さく左右に振った。
抑圧された記憶が出来上がる瞬間を見てしまったらしい。……この先、不破先輩が寒天やくず湯恐怖症にならないといいんだけど。
「良いことしたみたいに言って。元凶はお前じゃないか」
悪びれるふうもない喜八郎の背中をつついてこそっと言う。
喜八郎は涼しい顔で、首をひねっている雷蔵とまだ俯いている兵助を目で指した。
「ちゃんとアフターケアしてるもん」
「もん、じゃないだろ……」
「それにあの仕掛けを使ったのは三木ヱ門と団蔵を助けるためだしー」
「それは……まあ、感謝してるけどさ、まさかこうなるとは」
声をひそめてやりあう四年生たちに気付いた雷蔵が、急に寒気に襲われたように、両手で自分の腕をこすった。
「私が医務室にいるのは綾部が運んで来てくれたからで……でも、寝かされていないということは、普通に自分で動いていたということ?」
「そうですよ。普通ではなかったけど」
不安を煽ることを言って喜八郎が頷いたので、雷蔵は腕を交差して両肘を掴んだまま「わあ」と小さな悲鳴を漏らした。
「もしかして自分で覚えてないだけで、私は何か変なことを言ったりやったりしたの」
「あー……」
戸惑いに満ちた視線を向けられて、三木ヱ門は思わず目を逸らした。
雷蔵が首を巡らせても、伊作も文次郎も、左吉も目を合わせようとしない。