怖い光景を想像して三木ヱ門がぞおっとするのと、雷蔵を観察して喜八郎が眉を逆立てたのは同時だった。
「不破先輩、狸寝入りはよしてください」
膝に額をくっつけて静かにしていた雷蔵の肩がぴくりと動く。
そして、豪雨がやんだ後に巣穴から外へ出ようとしている慎重な生き物のように、そろりそろりと顔を上げた。三人の六年生と二人の四年生、ひとりの一年生にじっと注目されているのを目に留めてやや怯んだものの、「見抜かれた」と困り顔で愛想笑いを浮かべる。
「いつから起きてたんだ」
寝ていろと命令した文次郎が尋ねると、雷蔵はごしごしと目をこすりながら首を傾げて考えた。
「目が覚めたのは、出たぁ、の辺りです。うつらうつらしていて……でも、その前のことがなんだか曖昧で」
「頭は大丈夫?」
「へっ?」
這い寄ってきた伊作に唐突に尋ねられて、雷蔵は声を裏返した。
「え、と……それは私がアホってことですか」
「ああ、違う違う。どこまで記憶が残ってるのかな。目はちゃんと見えている? 周りに誰がいるか言ってみて」
「……潮江先輩、立花先輩、田村、綾部、左吉、それに善法寺先輩――と兵助です。あの、記憶って」
「目はもう平気だな。頭が重いとか痛いとか、どこか調子が悪いと感じる場所はあるかい」
「特には何も――でも、どうしてだろう、ちょっと綾部が怖い……です」
早く帰ろうと言って雷蔵の袖をつまんでいる喜八郎からやや身を引くようにして、雷蔵が答える。
「私は不破先輩と久々知先輩を落とし穴から引き上げて、ここに運んだんですよ」
「え、そうなんだっけ? ごめん、ありがとう……なんで怖いなんて思うんだろ」
口をとがらせる喜八郎に謝りつつ雷蔵が不思議がる。