重ねて尋ねる声は穏やかだし、仙蔵の表情はにこにこと機嫌が良さそうでどこにも険がない。
しかしその場には戦慄が走った。喜八郎だけは強張った空気に頓着せず、かーえりーましょ、と詠うように節をつけながら雷蔵をちまちま小突いている。
緊張感に圧倒されて首をすくめたまま、伊作が言った。
「何も見てない……よ」
「人が入れる大きさの檻と、図会が何冊かあっただろう」
「自分で言っちゃうの!?」
「そんなもんを天井に上げてんのか!?」
文次郎と伊作が同時に突っ込み、左吉が思わずのようにひしと三木ヱ門の肘にしがみついた。檻、という言葉の衝撃にぽかんとした三木ヱ門は無意識に口走る。
「……え、誰を拉致監禁?」
さっき八左ヱ門の顔をした三郎が「その顔が必要」と言われて引きずられていったが、ひょっとしてもしかして。
「大きい檻だと言うだけだ。別に人間用じゃない」
落ち着き払って仙蔵が剣呑な想像を否定する。そして、お前は先にも私を見て「出た」と騒いだなと、ちょっと三木ヱ門を睨む振りをした。
「それに鉢屋は用が済んだので自室に帰した。かなり疲れていたから、たぶん今頃は寝ているだろう」
「何をなさったんですか……」
「多少、精神の緊張を強いられること」
「ちゅんちゅん。朝ですよ。起きましょうよ」
雷蔵を揺すっている喜八郎が似せる気のないすずめの鳴き真似をした。
八左ヱ門の動向が面白いから、作法委員長が鍛えた忍雀に八左ヱ門の顔を覚えさせて追跡と情報収集の訓練をするのだと、そう言えば喜八郎が言っていた。
すると三郎は二、三十羽の忍者のすずめと至近距離でお見合いでもしたのだろうか。おそらく逃げ出せない状況に放り込まれた上で、鋭い爪とくちばしを持った多勢のすずめに目と鼻の先でパタパタされながら。
「うわあー……」
「たぬきがいる」