不意に割り込んだ声の出どころを仰いでみれば、衝立に手を掛けてその向こうから仙蔵が覗き込んでいた。
「出――たぁ!」
そう叫んだのは誰だったのか、仙蔵と反対側の壁際まで全員が一斉に飛び退く。
あまりと言えばあまりな反応に、さしもの仙蔵も少々傷ついたような顔をした。
「私は悪鬼妖怪か何かか」
「どもー」
作法委員長の嘆きをよそに、軽い挨拶とともに衝立の脇からひょいと喜八郎が顔を出す。緑と紫と井桁模様の団子の中に埋もれた2つの青を見とめ、両手を床についてはいはいでにじり寄ってくると、伊作の方を向いて五年生たちを指した。
「連れて行っていいですか」
「人を指差すんじゃないの」
「はあい。それで、いいですか」
そろそろ宿題に取り掛からないと僕もまずいんですと、この状況にあって未だ膝に顔を伏せている雷蔵の脚に手を掛けてがくがくと揺らす。
「不破先輩、久々知先輩、長屋に帰りましょう。もうクスリは抜けたでしょ」
「待て綾部。不破はいいが、久々知は置いてけ」
「ほう」
さらりと不穏な発言をした喜八郎に文次郎が待ったをかけると、仙蔵の目が興味深そうに光った。するりと衝立の内側へ入り、全員が壁に寄ったせいで空いた場所に当然のように腰を下ろす。
「何の話をするのかな」
「腰を据えるな! 会計委員会の活動に関わる話だ。部外者は立ち入るな」
「しかしなあ。伊作」
徐々にほどけた団子から抜け出そうとしていた伊作に、仙蔵がのんびりと声を掛ける。
「お前は今日の放課後、床下や天井裏まであちらこちら回っていたな」
「あれは……虫除けを撒いてたんだよ。害はまだそれほどじゃないけど、最近、虫が多いだろう?」
「そうだな。それは私も感じていた。で、我々の部屋の天井裏で何を見た」
「え、それじゃあれ本当に仙蔵の……」
「何を見た?」