「単純に考えれば、善法寺先輩がそうするより先に、竹谷先輩が薬を別のものとすり替えていたというところでしょう」
蜜漬け薬の存在が伊作に対する一種の抑止力になることを、八左ヱ門は先刻承知だった。
本物の方を易々と手放すつもりなど最初から無かったのだろう。
壷の蓋を開ければ中身が偽物だということなどすぐにばれる。それが分かった上で壷を返し、伊作の反応を見て、その薬が伊作にとってどれほどの切り札になるのか見極めようとした。
「まさか石礫を浴びせられるとまでは思っていらっしゃらなかったでしょうけども」
八左ヱ門は予想以上に激烈な反応をした伊作から逃げ惑いながら、共犯の証拠をあっさり返すと思いましたか、本物はとっくに隠してあります、その在処は喋らない――、なんでここまで猛追されるのかいまいち理解できないけど「それも忍術です!」と開き直った。
「すると、下級生たちが持っている"小さい瓶"ってやつの中身がそれだな?」
「はい。おそらく」
しかし、すべての瓶がそうではないでしょう。
続けて言った三木ヱ門の言葉に文次郎と左吉が顔を見合わせる。ようやく一度瞬きした伊作は、ぐっと前のめりになった。
「それは、瓶にも本物入りと偽物入りがある、ってことか」
「善法寺先輩は下級生から見て最も信頼の厚い上級生のひとりだと思います」
「へ? ……それは、どうも?」
褒め殺し? と、伊作が訝しそうにかたかたと首を曲げる。
「そして今、一年生たちが――孫兵もかも知れませんが――長屋の自分たちの部屋に、本物か偽物かが入った瓶を隠していると予測されました。が」
そんな先輩が、薬を探しに一年生の私室に忍び込んで私物を漁るなんてことをなさるはずが、
「ない!」
阿吽の呼吸で左吉が断言した。