それきり口を開こうとしない。
と、急に片手を上げると、ぴしゃっと痛そうな音を立てて自分の頬を叩いた。
「この白粉、簡単には取れねえんだ」
噛み付くような勢いで憤然と言う。気圧された三木ヱ門が「はあ」と曖昧な返事をすると、文次郎はまた黙り込み、頬に当てていた手を離して指先にフッと息を吹きかけた。
肌理(きめ)が覆いつくされてのっぺりした白い皮膚は柔らかみがなく、確かに、化粧を落とそうとしたら糠袋とぬるま湯よりも大工道具が要りそうな質感をしている。雪のように白いとか、練絹のように滑らかというのは褒め言葉になるだろうが、「漆喰を塗ったようにすべすべのお顔ですね」と女性に言ったら、横っ面にきつい一撃が入るだろう。
「美人のぬりかべ、っているんでしょうか」
つい口走った三木ヱ門に、文次郎は肩越しに少し振り返って片目を細めてみせた。
「見たことはねえな」
平板な顔と口調で言う。
「えーと……、頭巾、結べましたよ」
話の接ぎ穂に困った三木ヱ門は、もうとっくに結び終わっていた頭巾の形を整えるふりをして、さり気なく目を逸らした。
あー、と言って無造作に首の後ろに触れた文次郎がふと変な顔をする。
「蝶結びではなく、ふくら雀にしてみました」
この一方を持ち上げてひだを寄せて、ここに手拭いを詰めてふくらませて、と頭巾に触れて説明する三木ヱ門は平静を装っているが、どこか得意げな様子が端々に覗く。
「器用だな」
溜息を飲み込んだ声で言って、文次郎は仕方なく苦笑いした。
誇らしそうににこりとした三木ヱ門が、ふと真顔になった。