体力増強剤に問題が見つかったと伊作が言ってからずっと思案顔で黙り込んでいた三木ヱ門は、文次郎を引き留めたまま伊作に顔を向け、「思い当たることがあります」とはっきり言った。
「私が話してよろしいですか」
このままでは会計委員長への心証は悪化の一途ですよと、言外に匂わせる。来月の予算が無くなりますよ、本当に。
「えー……うー」
「構わん。話せ」
口をぱくぱくさせる伊作の逡巡の呻き声をすっぱり無視して文次郎が促す。
では、と袖から手を離して三木ヱ門はかしこまった。
「生物委員会の一年生の虎若と一平が――おそらく三治郎と孫次郎もでしょうが、水飴だと言ってどこからか小さい瓶を貰って来たと聞いています。そうだったな、左吉」
「はい。最低三ヶ月は寝かせるように言われたと一平が言っていました」
「また"三ヶ月"か」
独り言のように文次郎が呟くが、伊作に聞かせるための一言だ。伊作は落ち着きなくきょときょと辺りを見回し、何度も手を組み替えては、また目をうろつかせる。
「僕は善法寺先輩が水飴を下さったものだと予想していましたが――そのご様子では違うようですね」
左吉がいかにも残念そうに肩を落とす。予想が外れたせいなのか、驚いて目を瞠る伊作の尋常ではない態度が残念なのか、どちらとも取れる絶妙な肩の傾斜が見事だ。
瞬きを忘れた伊作に、今度は三木ヱ門が語りかける。
「私は、その蜜漬け薬を水飴に偽装して、用具委員会の目から隠しているのだと思っていました。余ったからと捨ててしまっては勿体ないですから」
しかし八左ヱ門は中身が入ったままの壷を伊作に返したと言う。
その中身を見た結果、伊作は八左ヱ門を追い回した。