少しは怪しまれるかと思ったのに、「分かりました」と簡単に頷いた八左ヱ門のあまりの素直さに拍子抜けしたくらいだ。
とにかくさっさと普通の栄養剤と入れ替えてしまおうと、取り戻した壷の中身を別の器にあけた。
「……」
そこまで話して、壷を傾ける仕草をしたまま伊作がぴたっと止まった。漆喰が乾くように見る間に目の周りが強張り、そこから血の気が引いて白くなっていく。
文次郎がこつんとお盆を鳴らした。
「続きはどうした」
「……」
「おい」
「……言うの嫌だ」
「あん?」
何を今更、と不審な顔をする文次郎と左吉から強いて目を逸らして、伊作は両手で膝を掴んでぐっと口を結んでしまう。
「やだ、じゃねえよ。これは質問じゃない、既に訊問に変わっているんだぜ」
声を低くして文次郎が凄むが、伊作は体育座りで並んで居眠りしている五年生たちを観察するふりをしながら、返事をしようとしない。
だんまりを決め込む伊作に、左吉が困ったように文次郎を見る。
文次郎はお盆を床に倒して胸高に腕を組むと、ふんと鼻を鳴らした。
「お前がここで黙秘を通すなら、次の会計監査と来月の予算会議は一切手加減しねえぞ」
会計委員会の伝家の宝刀を抜く。
そして文次郎がそうと口にした以上、ただの脅しでは済まない。もとから監査や予算申請に手心を加えるような甘さは備えていない所に持ってきて、非情の却下が次々と実行されることは必至だ。さすがにびくりと肩を引いた伊作は、ぶたれた子犬のように身体を縮め、「だって、言ったら文次郎が怒る……」と床に向かって言い訳をした。
「内容によっちゃお前を怒る。言わなきゃ保健委員会が困る。どっちを選ぶ」
さあ、と伊作に詰め寄ろうとする文次郎の袖を、不意に三木ヱ門が引っ張った。