今なら色々と作れるし、と独り言のように言い添える。
「生物委員会に協力した見返りに、竹谷が薬草を手に入れて来た伝手を分けて貰ったから」
「……」
八左ヱ門が「善法寺先輩はこわい人だ」と暗い目をして吐き出した経緯を思いっ切り省略して煮詰めればそんな言葉に落ち着かせることもできなくもない。小猿の詳細を話したくなくて険しい態度をした八左ヱ門に目を輝かせて詰め寄ったと言う伊作の姿を想像して、それから、三木ヱ門はあっと声を上げそうになった。
伊作は小猿の素性と、それにまつわる理不尽な責任を知っている。
その上で軽く「おっけー」と言い放ったと八左ヱ門が呆れていたが、文次郎の前で無防備にその話をされるのはまずい。
「……で、試してみたいけど材料がなかった薬を、あれこれ試作できる」
後ろを向いていた伊作がのろのろと顔を正面に戻す。
その途中で視線が三木ヱ門の目の上を通った。
「えーとね……生物委員会がズルをしたのを知って、それを盾に多少強引なやり方で竹谷に販路を紹介させたし、おかげで保健委員会は潤ってるけど、その恩恵を独り占めしようって訳じゃないんだ」
文次郎の方を見た伊作の目が三木ヱ門に戻り、軽く首をかしげる。
「各種の薬をいつでも作れる体制が整っていれば、誰がいつどんな怪我をしてもすぐ対応できる」
「"怪我"って限定すんじゃねえよ」
医務室常備の傷薬と湿布薬の消費量が群を抜いて多い文次郎がぶすっと言う。
「自覚があるなら自重しろよ、お前も留三郎も。それは置いといて、僕が何を言いたいかって言うと、医務室の薬棚が充実しているということはひいては学園の役に立つってことだから、生物委員会に手を貸したのは個人的な利益の為だけじゃないんだよ、ってこと。――以上、言い訳」
八左ヱ門が高価な薬草を簡単に用意できた経緯は伏せたまま、伊作はそう言葉を締めた。