今日は何が逃げたんだろうと考えつつ、三木ヱ門はすくい上げた頭巾を丁寧な手つきで折りにかかった。
また蛇か、それともトカゲか、あるいは蜘蛛? 何にしても早く捕まえなくちゃいけないのだろうに、たまたまここを通り掛かったばっかりに、竹谷先輩も運が悪い。そう言えば作兵衛のやつは鹿子に何をしてたんだ?
「何をしていたんだ」
「えっ?」
ちょうど頭の中で考えていた言葉を文次郎が声に出したので、三木ヱ門はびくりとして手を止めた。
だんまりが気詰まりなのか、この風体の理由を改めて突っ込まれるのを嫌ったか、文次郎はやや声を大きくしてもう一度言った。
「何をしていたんだ、お前は、ここで」
「あ、私の事ですか。ええと、鹿子の手入れをして、それが終わったので道具を片付けて来て、天気が良いから散歩に行くところでした」
委員会活動がないのを幸い、のんびり放課後を過ごすはずだったのに、大分予定が狂ってしまったが。
自分から尋ねたくせに、文次郎はいかにも興味なさそうに「ふぅーん」と声を伸ばす。しかし、前髪の長さに合わせて高い位置に括り上げた髪の先が結び直した頭巾に掛かっているのを、三木ヱ門が何気なくつまんで除けると、途端に白い首筋を強張らせた。
「どうかなさったんですか」
「……それを聞くか」
「いえ、鉢屋先輩がどうかなさったのか、と」
外見のことは言ってくれるなと釘を刺されているが、あれほど激昂していた訳も気になるところだ。こっちならいいだろうかと水を向けてみると、文次郎は低く唸った。