その体力増強剤を使って生物委員会がイカサマレースで勝ち、賭け代の予算を全て持って行かれた用具委員長が委員会の活動資金稼ぎに奔走しているのを、同室の伊作はつぶさに見ているはずだ。日々斜めになっていく級友の背中に伊作はこっそり手を合わせたのか、それとも見えないふりをしたのか、その顔つきからはどちらとも窺えない。
「話は逸れているようで繋がっています」
「……そうかもね」
「預かり物のその珍しい生き物は飼育にとんでもないお金がかかるから、配分された以上の予算がどうしても必要だった、と言うことですが、」
「んーん」
三木ヱ門が話している最中、文次郎が急に鼻にかかった声を出した。何か意見を挟むのかと一斉に注目されて、少し慌てた様子で首を振る。
「何でもねえ。息が変に抜けた」
「そうですか。……話を続けてよろしいですか?」
「ああ」
確認をとる三木ヱ門に一瞬どこか心許ないような表情を見せ、文次郎はすぐいつもの様子に戻る。
小猿の素性を秘匿されていることと、その面倒を見るためにじゃんじゃん予算が飛んで行くことを考え合わせて、何か思う所があったのかもしれない――と、三木ヱ門は内心ひやりとした。自分の先輩は断片的な情報から正解を導き出すのが結構得意だと、今日改めて思い知ったばかりだ。
「本来、無関係な第三者であるはずの善法寺先輩が生物委員会に加担した理由は、」
やや寸詰まりな「人」の字になって居眠りしている五年生たちを横目に見て、一度言葉を切る。
「――理由は?」
「ご自分で仰ってくださいませんか?」