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. . . . . . . . . . . . ぐだぐだ雑記兼備忘録です。
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written by 大鷲ケイタ
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「気が済んだか」
「ここ暑いですね」
たった今自分が質問を畳み掛けたのを忘れたような態度で、ぱたぱたと手で自分の顔を扇いで兵助が真顔で言う。
投げた言葉が宙ぶらりんになった文次郎は手にしているお盆を見下ろした。左右に持ち手が付いた、何かの廃材の再利用と思しき分厚い板の角盆の上には、熱い薬湯の入ったお椀が並んでいる。
「ぶっ掛けるなよ。外で病人が待ってる」
「いや、この盆の底で久々知の頭の天辺ひっぱたきてえ。……元に戻るかも」
不穏な気配を察して釘を刺した伊作は、文次郎のその返事に、「へえ」と軽く目を瞠った。
「分かるんだ」
「分からいでか。おかしいだろ、どう見ても」
「どういうことですか?」
暑いな暑いね暑いだろうと言いながら壁に寄せて置いてあった団扇でバタバタ扇いでくれる兵助と雷蔵に辟易しながら、三木ヱ門が口を挟む。
「その二人が被ってた粘着剤の成分の中に、どうも認知回路を狂わせる物質が入ってたらしい。それが何かは詳しく調べてみないと分からないけど」
喜八郎言うところのダークマター製のぬるぬるのことだ。
それはそれとして、このあと訊問が控えているというのに、伊作がわざと口元を強張らせてこみ上げる笑いを噛み殺しているのが気になる。髪をざんばらに吹き乱される姿がそんなに面白いのかと、三木ヱ門は内心でちょっとしょげた。
「簡単に言うと、関心が一方向にしか向かなくてしかも長続きしないんだ。だから思考が浅くなって、言うことやることに脈絡がないし、考えていることがすぐ口に出る。関心が別のものに移ったあとは、それまでの言動が記憶から抜け落ちる――らしい」
さっきの口論ももう覚えていないと思うよ、と伊作が言う。確かに猛烈な勢いで団扇を扇ぐ二人の息は合っている。
「面っ倒くせえ!」
大声で言って嘆息した文次郎が、呆れたように首を振る。
「自分が言ったことも会話が終わるたびに忘れるってことじゃねえか。田村、お前よくそんなのと話を続けられたな」
「……素材を特定してうまく成分を抽出できたら、自白剤が作れる……ふふふ」
「よし分かった黙ってろサイコメディック」


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