渾身の一突きを浴びた文次郎は二、三歩たたらを踏むと、急に腰砕けになって尻餅をついた。それで勢いが挫かれたのか立ち上がって来ようとはせず、白塗りの顔を渋面にして、どっかりと胡座を組み直す。
「私が何をしたと言うんですか」
片手で喉を押さえ、掠れてしまった声で八左ヱ門が訴えた。さすがにいつもの快活さはなりをひそめ、上目遣いに睨むような恨みがましい顔つきになっている。
「悪かったよ」
表情は見えにくいものの、無体をした自覚はあると見え、ぶすっとしたままそれでも文次郎が謝る。いつの間にか解けた蝶結びは、長過ぎる襟巻きになって地面に垂れている。
「結び直しましょうか」
三木ヱ門が言ってみると、文次郎はぎょろりと目を動かして後輩を見た。睨んだ訳ではないが、赤い縁取りのせいで白目が際立つので妙な迫力がある。
余計なお世話だと怒られるかな、と思ったが、文次郎が心底嫌そうな口調で「頼む」と答えたので、三木ヱ門は縮めかけていた首を伸ばした。
「蝶結びでいいですか」
「何だっていい」
膝立ちに後ろへ回った三木ヱ門に苦々しく言い、文次郎は眉間にしわを寄せて目をつぶった。
呼吸を整えながらそのやり取りを見ていた八左ヱ門は、手を伸ばして落ちていた虫捕り網を拾うと、「用事の途中なんで失礼します」と軋んだ声で言って踵を返した。
これ以上巻き込まれてはかなわないと、逃げ出したようにも見えた。