「逆ギレやめろよ。自分がそう思ってるんだろ」
切り口上に兵助が言い、ぎゅっと唇を噛んだ雷蔵に向かって更に言い募る。
「委員長代理だからってなんでも思うままになる訳あるか。伊助も三郎次も真面目だしタカ丸さんは隠し事が苦手だ。それを説き付けるのが簡単だと思うか? それに顧問だっているんだ。土井先生に話を通すのは俺だって恐る恐るだった」
「土井先生は安藤先生と確執がある。会計委員会を欺く計画なら、顔には出せなくたって内心は喜んで乗るだろうさ。実際、乗ったんだろう?」
「それを楽々やったと思われちゃたまんねえよ!」
「大声を出すな。医務室だ」
「……」
さっきまでの緩んだ空気はどこへやら、止めどなく膨れ上がる険悪な雰囲気をどうしたらいいのかとうろたえて、三木ヱ門は狭い衝立の内側でやたらにきょろきょろした。普段は大人しかったり温厚だったりする人ほど一度怒ると怖いという一般論を、今まさに身をもって実感しつつ呆然とする。
まさかこの二人が口論をするなんて。
文次郎と留三郎の口諍いなら横目で眺めていられる。でも、この状況は――どうしよう。
お互いに手が出るほど逆上してはいないがそれも時間の問題に思える。悪いことに、雷蔵も兵助も体術はそこそこ使う。
おろおろする三木ヱ門の目が、一点に留まった。
「顧問を引き込んだあとは確かに万事やりやすくなったけどな。新しく火薬の買い入れ先を開拓できたのは、土井先生の人当たりが良くて色々な所に伝手を持ってたお陰だ」
兵助が蓮っ葉にフンと鼻を鳴らし、雷蔵が険相をする。
「持って回った言い方はやめろ。中在家先輩の人柄を貶すのは許さない」
「だから、それも、お前がそう思っているからそう聞こえるんだろう?」
「兵助!」
がたっ、と大きい音を立てて衝立が動いた。