「予算不足を補うのに、漉き返し紙を売ることを思いついたのはきり丸なんだ」
私にはその発想がなかった。
指の関節を鳴らすように両手を組み換え組み換えしながら、雷蔵はやや早口になって言う。
確かにきり丸が得意気にそんなことを話していた。販売の段になれば自分の人脈がものを言うのだと、目を銭の形にしていたっけ。
「田村――が、追及しに来た話」
「裏予算案」
言いづらそうに口元を曲げる雷蔵に三木ヱ門がぼそっと言うと、兵助は急にあらぬ方へ視線を飛ばし、雷蔵は悄然と瞬きして「そう、それ」と呟いた。
「そんな話があるって、中在家先輩に言い出しそびれて……その間に、"雀躍集"を買うことになってしまった」
報告書に記載する支出よりも実際に出て行く金額は工夫して低く抑えて、その差額をこっそり貯めておく――という計画は、六年生の長次がいる図書委員会では雷蔵の一存では実行できない。だから、学園長が友人にいい格好をしようと自伝を買い入れる約束をする前に長次に話しておけば、もしかしたら予算を使い切るほどの大量購入は避けられたかもしれない。
「やろうとしていたことは不正だし、意味のない仮定だけど。私の迷い癖のせいで予算不足になった……とも言える、と思う」
「そうでしょうか。……誰が何を言っても、最後は結局、学園長先生が専横を押し通したと思いますが」
「だけじゃなくて」
もどかしげに、雷蔵が組んだ指をきゅっと握る。
「私は以前、修補しようとした本の傷を余計にひどくしたことがあって――当然だけれど、中在家先輩に随分叱られた」
その時に、傷めた本に貼り付けても目立たないような紙を漉こうとして、大量の試作品ができた。きり丸はそれを覚えていて、図書委員会の持つ紙漉きの技術で色々な紙を作ってはどうだろうと皆に提案した。
「……五年生が、情けないじゃないか。一年生が名案を出して、それを考えたきっかけが私の失策だなんて」
私は図書委員会の二番手なのに。